【その1】
平成15(2003年)年6月現在、日本で一番高さの高いマンションは、埼玉県川口市に平成10年7月に完成した「エルザタワー55」です。(分譲:大京 施工:竹中 戸数:650)あの元読売ジャイアンツの松井が最上階に住んでいたことでも有名になりました。 そもそも、超高層マンションの幕開けは、昭和51年完成の「与野ハウス」(埼玉県21階建て)に始まりましたが、その後10年間は、その建設はわずか6棟程度にとどまっていました。しかし、バブルが始まった昭和63年になると、その年だけで、6棟、バブルピーク時の平成4年には、11棟も建てられるようになりました。
*バブル時建設のマンションには、コンクリートの材料不足と、職人不足により、施工不良の物件散見されています。最近も、都市住宅整備公団のマンションの施工不良発覚[一部の部位に何と、コンクリートが入っていない!]がニュースになりました。
その後、バブルも弾け、阪神大震災の翌年の平成8年には、さすがに超高層は、売り難いと踏んだのか、分譲計画の見直し(竣工時期の延期等)により、たったの1棟のみでした。
ところが、徐々に阪神大震災の被害状況が検証されていく中で、一般の建物の被害があれほど甚大であったにも拘らず、意外?!にも、超高層建物に関しては、被害がほとんどないか又は軽微であった(神戸ポートアイランドのマンション・神戸新市庁舎・新築ホテル等)ということが、各マスメディアから流れ始めると、それまでの「
超高層は、地震時には心配」というユーザーの意識は、一転「
超高層は、地震時は逆に安心」という意識へと、塗り替えられていきました。
そして、平成11年には15棟、12年には22棟、13年には25棟と「超高層マンションブーム」が訪れたのです。そのブームを呼び起こした要因には、地価の下落・大規模用地の市場放出・都市再開発の促進政策・建築工法の合理化によるコストダウン等の市場環境も去ることながら、このユーザー意識の転換による購買欲の活性化も、かなりのウエートを占めている事は、間違いのないところです。
【その2】
ところで、超高層マンションの構造は、一般の低中層マンションと、どこが違うのでしょう?なぜ、地震に対して強いのでしょうか?ここでは、少しだけ超高層マンションのハード面を考察してみます。
【1】
構造部材
一般の低中層マンションは、一般にRC造、超高層マンションも今日では、RC造が主流。では、どこが違うのでしょう?一番の違いは、構造部材の強度の違いです。
通常は、柱のコンクリート圧縮強度は、18N〜21/mm2程度、ところが、超高層マンションは、42〜80N/mm2と3倍以上の強度を持つ
高強度コンクリートを使っています。柱主筋は、通常が、直径25ミリ以下(降伏強度345N/mm2以下)であるのに対して、超高層は、直径41ミリ以上(降伏強度490N/mm2以上)と約1.5倍以上の強度の
高強度鉄筋を使用しています。
【2】
架構形式
一般の低中層マンションは、通常は、純ラーメン構造(又は壁式ラーメン構造)、そして、超高層マンションは、通常、同じく純ラーメン構造(最近、超高層壁式ラーメンも開発)です。しかし、スケルトン(躯体)のレイアウトが少し違います。一般の建物は、片廊下型か階段室型で、住戸が主に一列に並んでいますが、超高層の場合は、住戸が建物の三方又は、四方を囲んでいる形状になっています。前者は、建物の中央部又は、端部に、エレベータや階段などの強固な骨組みの部分を集中(
コアシステム)させている形状。後者は、中央部分を前面ボイド(吹き抜け)にして、ボイドの回りを柱が多角形の形で、二重に囲む(
ダブルチューブ架構)形で、一般の建物以上の「強度」を確保しています。
【3】
建基法による規制
建築基準法では、建物を構造耐力上安全な構造とするため、建物の高さに応じた「構造設計・計算」の規定を設けています。尚、同法では、高さ60m超の建築物を「超高層建築物」と定義しています。(以下は、RC・SRC造の場合)
ア)2階(200m2)〜20m |
許容応力度計算=(A) |
イ)20m超〜31m |
(A)+層間変形角計算+剛性率偏心率計算=(B) |
ウ)31m超〜60m |
(B)+保有水平耐力計算(靭性確保のために追加された) |
エ)60m超〜 |
国土交通大臣の定める特別な構造計算による
(日本建築センター等の指定検査機関の超高層建築物構造審査委員会の審査を受けた後、大臣の認定を受ける) |
*平成12年の改正で、ア〜ウについては、限界耐力計算による事もできます。 |
上記のように、建物の高さが高くなるほど、より複雑な構造計算を、要求される仕組みになっています。その中でも特に、60m超(20階程度)の超高層建築物は、基本構造の安全確保のため、より厳格なチェック体制で、極めて厳しい構造計算を行うことが、法律により担保されているのです。
なお、超高層建築物の構造設計においては、十分な
剛性(堅さ)や
靭性(ねばり)の他に、近年日本でも、
塑性変形能力(力の加わった部材等が元の状態に戻らないことにより力を逃がし、建物全体のダメージを低減させる)も重要視されています。