マンションの耐震改修・その1


宮城県においても、2003年(平成15年)7月26日の震度6弱の強い地震(強震が24時間以内に、3回という異例のもの)により、屋根重量の重い、大屋根造りの民家や老朽化していた行政施設(RC造)・小学校(RC造)などに大きな被害を出したばかりですが、奇しくも、仙台市が、地震被害が懸念される旧耐震基準の分譲マンション(昭和56年6月1日以前の建築確認日のもの)を対象に、行政補助による耐震予備診断の実施制度をスタートさせる矢先のことでした。

仙台市が、平成14年10月に行なったこの旧耐震基準マンションへのアンケート調査では、耐震診断を実施した管理組合は、わずか3%に過ぎず、耐震診断を検討したことがある管理組合でも、全体の30%程度と、総じて低い結果となっています。

この原因としては、管理組合のコミニティー不足によるもの(或いは、管理組合自体が機能していない)や、管理組合の情報不足(自分のマンションがいつ建てられたのか把握していない・旧耐震基準マンションが地震被害を懸念されていることをを知らない等)さらには、耐震診断費も含めて、費用面で合意形成が得られない等が考えられますが、どんな理由にせよ、地震は先般の宮城県北部地震のように、台風などとは違って、何の前触れもなく突然襲ってきますので、一日でも早い耐震診断の検討が望まれるところです。

そこで、今回は、マンションの耐震改修の第1回目として、マンションにおける地震被害のパターンと、耐震診断について考察します。



<RC建物の地震被害のパターン>



@ピロティー崩壊

ピロティーとは、建物本体の一階部分の駐車場や通用ゲートなどで壁のない柱だけの部分のことで、この崩壊の原因としては、その階の耐震壁が上階以上部分に比べて少なかったり、耐震壁があっても極端に偏在している場合などに起きるものです。

※平面バランス上、耐震壁が偏在していると、建物重心と剛心が[強度の中心点]の位置が大きくずれる(偏心率が大きい)ので、建物に地震等の強い水平過重が加わると、剛心を支点として、重心に建物をねじるような力が加わることになる。


A柱のせん断破壊

これは、脆性破壊ともいわれるもので、特に建物の短柱部分に集中した被害がみられるものです。地震時、長短の柱が混在する建物(連窓タイプの腰窓の多い建物等)の場合、長い柱部分は、ある程度の靭性(ねばり)を有しているので、水平挙動に追従できるのですが、腰壁や垂れ壁が付いている短い柱部分は、靭性が低いので、水平挙動に追従できずに、せん断破壊(はさみで切るような左右からの力が加わり、帯筋がちぎれて柱が折れる)を引き起こします。

1968年の十勝沖地震では、学校などにこの現象による多くの被害を出したことから、1971年に建基法の一部改正がなされ、柱帯筋(せん断補強筋)の上下端部の配筋ピッチが、15センチ間隔から、10センチ間隔に強化されています。


Bブレース破壊

ブレースとは、いわゆるX形やK形の柱・梁部の筋交いのことで、これには、建物に加わる引張り力に対抗するために取り付けられるものと、引張り力と圧縮力の両方に対抗するために取り付けられるものとがあります。そもそもブレースは、建物の剛性補強のためのものですが、設計当時の基準の甘さや施工不良などが原因し、過去の大地震で大きな破壊を引き起こしています。

この場合の破壊のパターンとしては、設計時に想定した以上の水平過重がブレースに加わり、ブレース自体が破壊(破断・座屈)する場合(ブレース自体の剛性不足)と、ブレースがその耐力を発揮する前に、接合部分が先に破壊する場合(接合ボルト等の剛性不足)があります。



<耐震診断>


耐震診断は、簡易的な予備診断から、一次・二次・三次診断まであり、上位の診断ほどより精緻な診断となるので、安心度もそれに比例して得られることになります。
以下に、各診断レベルの概略をまとめます。

@予備診断→→  設計図書(構造計算書等)の確認と現地目視調査

A一次診断→→  柱・壁量(断面積)を計算して、建物剛性を判定する。
             壁の多い低層建物の診断に適している。

B二次診断→→  柱・壁の耐力やねばりを求め、梁以外の建物の剛性・靭性の両方を判定する。
              中高層のマンションに適している。

C三次診断→→  柱・壁に梁も含めて、耐力やねばりを求め、建物全体の剛性・靭性の両方を判定する。
             中高層のマンションに適している。


なお、耐震診断を実施しようとして、検討をしていた管理組合も、設計事務所などから提出された二次診断以上の見積り費用を見て、その費用負担のあまりの大きさ(二次診断費用、平米1000円〜1200円とした場合、一般的な延べ床面積6000m2の場合で、600万円〜720万円となる)に、二の足を踏む管理組合も少なくないようです。

※二次診断以上の診断費用が高額なため、予備診断だけで、建物のウィークポイントが判然とした場合などは、その上の詳細な診断を行なわずに、耐震補強を実施するケースもあります。

参考までに、前記仙台市の費用補助による予備診断は、2〜3万円程度(予備診断費用の1割程度)の負担のみで、行なうことができます。




       



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  /管理規約の設定・変更・廃止/管理組合の集会

【その3】
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【その4】
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