<プロローグ>
ある研究グループが、全国48主要都市の固定資産課税台帳の記録をもとに行った「建物寿命実態調査」(昭和62年時点)によると、鉄筋コンクリート造の共同住宅の代表的な寿命は、「38年」であったといいます。(その寿命年数は、その後の調査でも、ほぼ同程度で推移)これは、その後、札幌市で平成8年に、築38年で取り壊された、公的デベロッパー設計の9階建て大型マンションの寿命とも、偶然にも一致しています。
一般の人が持つ鉄筋コンクリートの堅固なイメージからすると、予想外に短いと感じられる方が多いと思います。現に、行政においても、それまで60年とされていた、RC造及び、SRC造の税務上の法定耐用年数も、平成10年4月1日以降開始事業年度分については、「47年」と大幅に引き下げられました。
<いつの時点が寿命時期?>
ところで、鉄筋コンクリートの建物の寿命は、どの時点をもって寿命といえるのでしょう?一般には、コンクリートの中性化の進行が、鉄筋に到達した時期であるといわれています。ですが、よくよく考えてみますと、現実には、鉄筋の腐食が始まったからといって、直ぐに建物が倒壊するわけでもないですし、ましてや、躯体の中には、鉄筋の数が相当数あり、太さも受け持つ応力も部位によってまちまちです。
また、鉄筋への中性化到達は、環境条件の格差から、全部位が同時期に訪れるわけではないので、その鉄筋腐食部位が、建物強度にさほど影響しない部位であれば、コンクリートの中性化が鉄筋に到達した時点イコール建物寿命という前出の一元的定義は、当てはまらなくなります。(おそらく、この定義は、理論上中性化進行は、部位にかかわらずほぼ一律であり、一部の主要部位で、中性化が鉄筋にまで達していれば、建物全体としても、同じ状況であるという類推が、前提にあるのだと思います)
結局のところ、建物の取り壊し時期を寿命とするならば、その時期は、実際には、鉄筋腐食の部位、範囲、程度や腐食による一部部位の強度低下がもたらす、建物「剛心」の著しいずれ(偏心率の増大)など、あくまで、個々の建物ごとに判断するしかないのではないかと思われます。
<耐用年数の理論値について>
鉄筋コンクリート造建物の耐用年数を決定する主な要因には、2つの要因がありますが、その内の一つに、鉄筋に対するコンクリートの「かぶり厚」があります。かぶり厚は、より厚いほどコンクリート中性化の鉄筋到達時期が、遅くなるので、耐用年数は、長くなります。(ただし、厚すぎると、表面と内部の乾燥収縮の差が大きくなるので、ひび割れしやすくなる)
以下が、かぶり厚に基づく耐用年数算定の一般式です。
たとえば、建基法で規定している主要構造部(柱・梁・耐力壁)の最低かぶり厚3センチを上記算式に代入した場合、耐用年数は、約「65年」という理論値が算出されます。
もう一つの要因は、コンクリートの「密度」です。これは、密度が高いと、空気や水の侵入を抑えられるのと、セメント量増によるアルカリ成分の増加により、中性化進行速度を遅くできることに起因しています。
そもそも、コンクリートは、セメントペースト硬化体と骨材からできています。そして、硬化体は、水和物と毛細管水(余剰水)・空隙によって構成されています。つまり、コンクリートの中から、余剰水と空隙を減らせば、コンクリートの密度は、高くなることになります。(同時に圧縮強度も高くなる)それらの方法としては、AE減水剤を用いて単位水量を減らす方法や、シリカヒューム等の粉末を添加して、硬化体を緻密化する方法などがあります。(一般的には、圧縮強度の高い高強度コンクリートと呼ばれているものがこれに当たります)
以下は、日本建築学会が発表した、圧縮強度(設計基準強度)別の耐久性比較です。これを見ると、圧縮強度が6N/mm2上がると、およそ2倍前後の耐用年数に上がっています。ほぼかぶり厚1センチ強増やした場合と同程度の耐久性向上といえます。(公庫の高耐久性マンションの技術的基準等では、水セメント比の5%増減とかぶり厚1センチ増減をほぼ同じ耐久性とみています)
コンクリートの設計基準強度 |
大規模補修不要期間 |
18N/mm2 |
約30年 |
24N/mm2 |
約65年 |
30N/mm2 |
約100年 |
※上記はいずれも、静態的な理論「最大値」なので、実際には、耐久性を縮める種々のマイナス要因やメンテナンス不良により、上記事例マンションのように、寿命が大幅に短くなることも考えられます。
耐久性に対するマイナス要因については、かなり広範な内容となるので、中性化抑止手法と一緒に、次回以降に改めて考察したいと思います。
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