マンションの劣化と改修・その6
今回の劣化と改修は、RCマンションにおいて、築後比較的早い段階から、その不具合や劣化が発見されることの多い「バルコニー回り」についての考察です。
バルコニーは、最近こそ、アウトポール逆梁工法などのラーメン構造のフレーム内に納められる堅固な構造(インナーバルコニー)が採用されていますが、それ以前の構造は、いわゆるキャンティスラブ(片持ちスラブ)のオーバーハング(ハネ出し)バルコニーですので、積載過重に対しては、強度的にも脆弱な部分といえます。また、バルコニーの床や手摺壁は、長手方向の寸法が長く、日当たりのよい南面に面しているため、乾燥収縮によるひび割れや温度変化によるひび割れが、多く発生する部分でもあります。
近年の専門業者による劣化診断などでも、バルコニー回りについては、築10年以内に何らかの不具合が見つかるケースがかなりの割合を占めています。
仮に、バルコニー床コンクリートの乾燥収縮が収まった築5、6年目頃、あなたの上の住戸のバルコニーの床部分から漏水して、洗濯物などを汚損した場合、あなたが、その無償補修を売主に請求しても、その漏水が室内に浸入していない限り、これら室外での漏水事故は、平成12年に施行された「品確法」では、瑕疵保証対象外とされ、又契約上の「アフターサービス規準」でも、瑕疵保証の期間切れ(バルコニーのひび割れの無償補修保証期間は、引渡し後2年以内で、その時点で漏水が起きることは希であり、又その時点でひび割れ補修をしても、コンクリートが乾ききっていないため、再びひび割れが起きる)となりますので、無償で補修に応じてくれるかどうかは、売主の「企業モラル」次第ということになります。
それでは、早速、バルコニー回りの劣化状況とその改修方法について、部位別に具体的にみてみることにします。
[バルコニー床平面]
バルコニー床部分が特に、現場打ちコンクリートで、セメント系の防水処理(防水剤入りモルタル塗り)の場合は、防水層がコンクリートの乾燥収縮等によるひび割れに追従できないため、築浅段階から、防水モルタルに浮きが生じ、漏水を引き起こすケースがあります。また、漏水被害が少ないからといって、補修工事をせず、そのまま20年以上も放置した結果、建物躯体との接合部の鉄筋腐食により、バルコニースラブの一部が崩落したという恐ろしい事例もあります。
このような場合の改修は、まず、モルタルの浮きをエポキシ樹脂注入により、完全に接着させてから、ポリウレタン等の塗膜防水か、施工面積が広い場合などは、長尺の塩化ビニール防水シート敷設による防水施工とします。また、モルタルが割れている場合は、その部分のモルタルをはつり取り、コンクリートの床スラブ自体のひび割れをUカットシール工法(弾性エポキシ樹脂充填)で、補修してから、上記と同様の防水施工とします。
なお、ポリウレタン塗膜防水は、新規に施工する場合も、やり替えの場合も、平面と立上り部の取り合い部分や、防水層の塗り仕舞い部分の塗膜厚(最低2ミリ以上確保)に注意しながら、トップコート(紫外線による主材の劣化防止)も含めて、それぞれ2回塗りとします。
[バルコニー避難ハッチ回り]
1992年(平成4年)以前の建物で、各戸のバルコニーに避難ハッチが設けられている場合は、材質が鋼板製(1992年以降は、消防法改正により、ステンレス製が義務化)ですので、特に、ハッチ枠周囲の詰めモルタルに水勾配がなく、その枠部分に雨水等が滞留しやすい施工の場合には、築10年以内にかなりの住戸で、ハッチ枠部分にも腐食の進行がみられます。(このような場合、ほとんどハッチが開かず、避難用具としての役割を果たさないことが多い)また、ハッチ枠の腐食とは別に、枠の周囲の詰めモルタル部分の劣化や施工不良により漏水しているケースも見受けられます。
改修方法としては、枠の腐食程度により、枠周囲の詰めモルタルを深さ5〜6センチ程度はつった後、枠部分の錆をケレンするか、または、腐食のひどい枠部分のみ新規の金物に取り替えてから、最後に防水モルタルで埋め戻すことになります。
[その他の部位]
バルコニー回りで、上記の他にトラブルの多いケースとしては、
@鉄製手摺りの錆・腐食による劣化
A床の排水ドレイン周囲のひび割れによる揚げ裏への漏水
BRC手摺り壁の大きな横ひび割れ(かぶり厚不足による鉄筋腐食等が主な原因)
Cアルミ手摺り支柱基部の内部劣化(アルミ製品は中空なので、中に水が入ると、支柱等の下部に水が滞留する。また、本体はアルミでも、基部アンカーは鉄製なので浸水が多いと腐食しやすい) などがあります。
改修方法としては、@の場合は、腐食の程度と、今後4〜6年サイクルの鉄部塗装費用との勘案によっては、アルミ手摺りにグレードアップ改修した方が、長期的には得策な場合があります。
ABは、鉄筋腐食の改善処理後、Uカットシール工法による改修。Cは、支柱部のコンクリートを大きく切り取って、アンカー鉄部ケレン・溶接部の復旧後、型枠組み無収縮モルタル注入等により埋め戻します。(支柱基部に排水パイプを付ける工法もある)
なお、セメント系防水処理だけのバルコニーでも、公団等の共同住宅に多いPCa工法の場合には、場所打ち工法に比べ、打ちムラのない均質なコンクリートであるため、床面のひび割れによる漏水は少ないのですが、パネルジョイント部のシーリング切れによる漏水が、築後比較的早い段階で起きる場合があります。
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