マンション訴訟の扉・その5[眺望瑕疵]
マンションの購入理由の一つに、一戸建てでは味わえない、上層階からの「眺望のよさ」があります。
マンションのチラシや情報誌などの広告でも、よく、素晴らしい眺望写真などの下に、「この写真は、マンション○○階からと同じ高さからの眺望です」などと書かれたものを見かけます。販売業者は、中高層マンションを希望するユーザーは、この眺望のよさに魅力を感じ、購入を決める人が少なくないことを知っているからです。ところが、眺望というマンションに付随した価値は、隣接の建物などの二次的要因に左右される極めて不安定な要素なので、マンションの着工時点と竣工時点(着工から10ヶ月〜1年後)で違っていたり、もともと近隣に存在した構築物でも、販売会社自体もそれらが、どれほど眺望の妨げになるかまでは事前に確認していないで販売している、などということも決してめずらしくはありません。
もし、あなたが、眺望のよさを購入動機の一つとして買ったマンションで、引渡し前の内覧会などで、早速バルコニーなどからお目当ての眺望を確認したら、隣接の建物の屋上構築物などで、せっかくの眺望が阻害されていたなどという場合、あなたならどうしますか?
今回は、そんなケースで、訴訟問題にまで発展した事例を取り上げてみます。
【事案概要】
平成6年、Aは、京都市内のB分譲会社のマンションモデルルーム(未完成物件)を訪れ、本件マンションの眺望性に惹かれ、7階建ての6階部分の一室(4,560万円)を契約した。
パンフレット等によると、本件マンションから二条城が見える旨表現されており、また、契約前にセールスマンに眺望について確認した時も、Aの契約した一室の西側窓からは、視界を遮るものはなく、二条城が見えるとの説明を受けていた。
ところが、引渡し前の内覧会ではじめて眺望を確認したところ、隣接ビル(5階建て)の屋上に設置されていたクーリングタワーにより、西側窓からの二条城への眺望が妨げられていることに気づいた。
結局Aは、契約物件からの二条城への眺望をB(セールスマン)に確認し、二条城への眺望を得られるものとして契約したのだから、契約の目的が達せられないとして、Bらを相手取り、契約違反に基づく売買契約の解除、それに伴う手付金(460万円)の返還並びに、損害賠償を求めて京都地裁に提訴したもの。
【平成10年・京都地裁判決要旨】
@B(セールスマン)は、Aからの眺望確認時、クーリングタワーなどの屋上構築物までは意識せずに、隣接ビルが5階建てであったことから、眺望阻害はないと返答したことは、軽率ではあるが、B(セールスマン)において、その時点で、二条城が眺望できなければ、Aが契約しない意思とまでは、認識できなかった。
A市街地の眺望は、その性質上、長期的・独占的に享受しうるものではなく、隣接建物などにより眺望が阻害されても受忍せざるを得ない。
以上から、AとBの間において、眺望阻害が本件売買契約の解約事由とする特約がなされたとは、認められないとして、Aの請求を棄却した。(原告Aの敗訴)Aは、これを不服として、大阪高裁に控訴した。
【平成12年・大阪高裁判決要旨】
@売主は、未完成マンションの販売においては、実物を見聞したのと同程度にまで説明する義務がある。
A売主の事前説明が、完成後において齟齬し、買主はそれを事前に知りえれば、契約を締結しなかったと認められる時は、契約を解除することもできる。
BAは、B(セールスマン)に対して、眺望阻害について何度も質問しており、B(セールスマン)においても、Aが二条城への眺望を重視し、購入動機としていることは、当然に認識しえた。
CBは、本件窓からの眺望について調査確認し、正確な情報をAに伝える義務があった。
以上から、Aは、本件売買契約を解除でき、Bは、手付金の返還に応じる義務があるとして、Aの損害賠償請求を認めた。(控訴人A逆転勝訴)Bは、これを不服として最高裁に上告した。
※平成12年9月、最高裁は、Bの上告申し立てを却下した。(これにより、Aの勝訴確定)
■損害賠償の内容は、契約上の違約金に相当する金額は否認されたものの、以下のものが判示された。
@売買代金支払いのための借入金(1,000万円)の利息 |
28,000円 |
A新たな住居確保のための不動産仲介手数料 |
150,000円 |
B弁護士費用 |
500,000円 |
C慰謝料 |
300,000円 |
なお、この「眺望瑕疵」事案は、あくまで、二条城の眺望という具体的眺望対象物に対する眺望阻害が、契約解除事由となりうるとされた事例ですので、一般の不特定眺望対象物(単なる町並みや風景)に対する眺望阻害の場合には、特段の事情がない限り、契約解除事由とまではなりにくいのではないかと思われます。
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