ここでは、調停調書や勝訴判決等の債務名義を必要としない「民法」又は、「区分所有法」の規定に基づく、滞納対策を考察してみます。
<その他の法的手段>
@■「動産先取特権」又は、「不動産(区分所有権)先取特権」の行使
これは、区分所有法7条に基づく区分所有者全員に、総有的に帰属する担保物権(請求権)で、管理者(通常は、理事長)が規約規定又は、総会の普通決議により、区分所有者全員のために行使することができます。
この先取特権に基づく競売請求は、先取特権を証する書面(管理費等を定めた規約等)等により、管轄(又は、合意)地方裁判所に対して行なうことになりますが、まず、滞納者所有の専有部分内に備え付けた動産から競売請求する必要があります。(動産執行では、明らかに弁済が受けられない場合には、最初から、不動産先取特権を実行できる)
この場合には、動産は、取り外し可能な「冷暖房機」や「換気扇」などに限られ、しかも占有者が差押えを承諾する文書を提出する必要(善意取得)があることから、現実的には、実効性がほとんど期待できない状況です。
一方、不動産先取特権は、一般の先取特権の第一順位「共益費用の先取特権」と同一とされ、登記された抵当権には劣後することから、ほとんどの区分所有権に設定されている住宅ローン等の抵当権が優先されることになります。結果、不動産評価額が下落傾向にある今日では、優先債権弁済後の配当が見込めないこと(無剰余)となり、しいては、競売請求自体が認められないことになります。
※無剰余とは、執行裁判所が定めた「最低売却価格」をもって、共益費用・その他優先債権を弁済すると、当該請求者に対する配当の見込みがない場合を言う。
A■他の債権者から競売請求された場合「配当要求」を申立てる方法
この先取特権に基づく配当要求は、配当要求終期までに、当該裁判所に申し立てる必要がありますが、滞納者の専有部分(区分所有権)に対して他の債権者から競売請求があっても、この場合特に、裁判所から管理組合に連絡があるわけではないので、実質的には、他の債権者からの競売請求事実を把握することは、困難な状況です。
また、仮にその事実を把握できたとしても、上記の先取特権の実行と同様、他優先債権弁済後の配当は、ほとんど期待できない状況です。(配当順位は、上記@と同じ)
ただ、他の債権者からの債務名義に基づく強制執行や、担保権の実行(担保執行)による競売請求が容認されれば、競売物件買受人が、区分所有法8条の規定により、滞納管理費等も引き受けることになりますので、結果的には、滞納金回収と同一の効果を期待することができます。
B■滞納者の専有部分に賃借人がいる場合「物上代位」の行使
民法304条の先取特権の物上代位により、滞納者所有の専有部分の賃借人から滞納者に支払われる賃料を差し押さえるという方法があります。この場合、賃料が滞納者に支払われる前に差し押さえる必要があります。
この方法は、あくまで、賃借人がいるということが前提とはなりますが、一般の債権回収においても、簡易でしかも早期回収が期待されることから、広く利用されていますので、マンションの管理費等の回収方法としても、有効な方法の一つだと思われます。
以下に、手続きの流れの概略をまとめてみます。
●管轄(又は、合意)地方裁判所に対して、「債権差押え命令」の申し立てをする。
□印紙(申立て手数料=3,000円)の申立書貼付
□郵券(2,000〜3,000円程度)の予納
□添付書類の提出
・請求債権目録(先取特権を証する書類[管理費等を定めた規約等])
・差押え債権目録
・当事者目録 等
●上記申し立てが受理されると、裁判所から、滞納者(被差押債務者)と賃借人(第三債務者)の双方に、「債権差押え命令」が送達される。
※この差押えによって、滞納者は、賃借人から賃料の取立てや、区分所有権の譲渡・質入等一切の処分が禁止される。また、賃借人は、滞納者(賃貸人)への弁済(賃料支払い)が禁止される。
●滞納者の賃借人から、滞納額に達するまで、毎月契約賃料の満額を直接取り立てる。