100年マンション・SI住宅って何?
戦後の高度成長期のスクラップアンドビルドの時代から、省資源・省エネルギー対応型の社会へと移行した近年、新しいハウジングシステムとしての「長寿命型住宅」への社会的要請が一段と高まっています。一方、個人レベルでは、家族形態やライフスタイルの多様化による、より自由度の高い都市型マンションへのニーズも年々高まっています。
こういった2つの背景から、公的機関や大学の研究室を中心に考え出されたのが、100年マンション「SI住宅」の発想です。SIのSは、「スケルトン(躯体部分)」 Iは、「インフィル(住戸内部分)」で、それぞれを別々に構築・管理し、高耐久性の居住空間可変型マンションを作り出そうというものです。
SI住宅に対する一般的認知こそ、ここ数年ですが、その取り組み自体は、意外に旧く1980年代には、すでに始まっていました。
<SI住宅への取り組み>
京都大学巽研究室から提案された「2段階供給方式」(スケルトンの供給・管理は、公的機関、インフィルは、民間企業)の考えを元に、1980年(昭和55年)に、大阪府住宅供給公社が、泉北ニュータウンにおいて、SIマンションを分譲しました。分譲マンションとしては、初の試みでした。また、同公社による1998年(平成10年)分譲の東大阪「ふれっくすこーと吉田」では、可動式間仕切り壁や可動式間仕切り家具(サービス会社が斡旋)の採用等により、居住空間可変型マンションとして、より発展的試みがなされています。
その他、公的機関の取り組みとしては、マンション総プロ(旧建設省総合技術開発プロジェクト)が、スケルトン住宅に「30年の建物譲渡特約付借地権」(30年の契約満了時、地主が、借地人所有のインフィルを買い取る借地契約)と「家賃相殺契約」(30年目以降、借地人が住み続けたい時は、借地契約から借家契約に切り替え、地主のインフィル買取額と借家人の家賃を相殺して、さらに20年〜30年住み続けられる契約)を組み合わせた「スケルトン定借」(通称:つくば方式=1996年に第一号が、つくば市で建てられたのでこの名が付いた)も提案されています。
ただ、いずれも、公的機関主導の実験的試みの段階ですし、市場経済的要件(事業主、ユーザー双方の明確なメリットや、費用対効果等)が、十分こなれていないので、競争の激しい不動産市場に定番として受け入れられるまでには、かなりの時間を要するかもしれません。
<SI住宅の技術的要素>
SIマンションを構築するための、規格化された技術的基準・仕様等は、まだ未整備の状況ですが、一般的基準とし、最低でも、以下の要素が必要であるといわれています。
[躯体の高耐久性確保]
【1】コンクリートの水セメント比50%以下
【2】コンクリートの設計基準強度(Fc)27N/mm2以上
【3】コンクリートの鉄筋かぶり厚5センチ以上
[居住空間の可変性対応]
【1】室内天井高2400ミリ以上
【2】小梁のない床スラブ工法(PC工法)又は、構造(壁式ラーメン等)
【3】段差、欠き込みのないフラットスラブ
【4】可変容易な乾式間仕切り壁
【5】全排水竪管の住戸外設置
【6】十分な床懐の確保(300ミリ程度)
※排水竪管を全て室外に出すためには、排水管(通常40〜65ミリ)の勾配(50分の1)確保上、通常の
マンションより床下寸法が必要となる。
<SI住宅の課題>
今後、SI住宅が広く社会に普及するためには、市場的要件の他に、以下のクリアしなければならない課題がいくつか残されています。
*所有権に関する法整備(スケルトン部分を別登記[別名義]にするための区分法改正)
*上下階の遮音性確保(上階の水回りの直下に寝室等がくる場合等)
*SI住宅対応の設備やクラディング(二次壁・サッシ等)・内装材及び、SI専用の家具等の研究・開発
※SIマンションに類似したものに、「コーポラティブマンション」があります。
コーポラティブ方式とは、「自ら居住するための住宅を建築しようとするものが、組合を結成し、共同して事業計画を定め、土地の取得・建物の設計・工事発注・その他の業務を行い、住宅を取得し管理していく方式」です。コーポラティブマンションは、SIマンションと異なり、分譲会社(デベロッパー)は介在せず、入居者が主体となって進めていきます。完成・入居後の建物は、分譲と同様の権利形態(区分所有権)です。海外では、欧米を中心に広く普及していて、ドイツでは、全住宅の約10%、ニューヨークでは、約20%がコーポラティブ方式といわれています。
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