マンションの劣化と改修・その1
戦後、昭和30年前後に「RCマンション」が初めて分譲されてから、四十数年経った現在、そのストック数は、実に400万戸を超えるまでになりました。
一方、その400万戸の供給戸数を経年別でみると、築15年を超えるマンションが全体のおよそ40%、築20年を超えるマンションがおよそ20%、築25年を超えるマンションがおよそ14%に上ります。
しかし、これらの中・高経年マンションの中には、建物を長期に保全するための適切な修繕工事が行なわれないまま、劣化の一途をたどっているマンションも少なくありません。
日頃の保守点検や、一定期間ごとの修繕工事が、計画的に行なわれていれば、70年以上は持つといわれているRCマンションも、十分な劣化抑止対策が施されないと、劣化の進行は、建物全体で加速度的に進み、建築年度の古いものでは、一説には、40年前後で寿命を迎えるとも言われています。そこで、今回から数回にわたって、「マンションの劣化と改修」について考察します。
<外壁ひび割れの改修>
建物劣化の根本原因となるひび割れの改修は、ひび割れの幅・漏水の恐れのあるひび割れ・挙動性のあるひび割れ・構造耐力上問題となるひび割れなど、「ひびわれの特性」を踏まえた上で、適切な改修方法が選択されることになります。
【竪型のひび割れの改修】
竪型のひび割れは、地震などの水平過重が加わると、ひび割れ部分にも挙動変化が伴うこととなるので、ひび割れを単に接着補修するのではなく、ひび割れ部分に挙動追従性をもたせ、ひび割れを再発させないような改修工事が必要となります。
@ひび幅5ミリ以上の場合
ダイヤモンドホイル等で、ひび割れ箇所を、幅・深さとも10ミリ程度のU字型にカットし、ポリウレタン系シーリング材(又は、変性シリコンシーリング)を表面から3ミリ程度の深さまで充填し、最後に樹脂モルタル等で埋め戻します。[いわゆる、Uカットシール工法といわれる工法です]
Aひび幅3ミリ以上5ミリ未満の場合
ひび割れ部分の既存の付着塗膜をきれいに除去した後、ひび割れの上からアクリル高弾性塗料を2回塗りし、塗膜厚0.5ミリ程度を確保します。
【横ひび割れの改修】
横ひび割れは、コールドジョイント(打設不良)などの施工不良に起因するものが多く、一般に雨水等の浸入の可能性が高いひび割れといえます。したがって、ひび割れの部位やひび割れ内の保水量などの状況によっては、室内などへの漏水の危険性も出てきますので、十分な浸水防止効果のある改修工事が要求されます。
現在、横ひび割れの改修で最も多く用いられている工法は、エポキシ樹脂低圧注入(注入箇所がすでに湿潤している場合は、湿潤用エポキシ樹脂)により、ひび割れ部分を接着させる方法です。
この場合、注入孔は、10センチ〜20センチ間隔で設け、注入する深さは、10センチ程度までです。
<外壁及び、内壁の鉄筋腐食の改修>
一般に、コンクリートの中性化やそれらに伴う鉄筋の腐食については、外壁部分にのみ目を向けられがちですが、実は、中性化の進行自体は、人間が放出する炭酸ガス(二酸化炭素)の影響で、外壁側より内壁側の方が、3倍も速いと言われています。そのため、各専有部分で、築15年〜20年程度で行なわれる大掛かりな室内リフォームの際には、内壁側からの躯体劣化改修工事が、建物全体の延命としては、極めて重要となります。
さて、外壁及び、内壁の鉄筋腐食の改修方法ですが、まず、腐食した鉄筋まわりのコンクリートを、鉄筋の錆びのある部分の裏側に指が入るまで及び、錆びのない部分まではつり(ジャンカ[豆板状部分]などの不良部分がある場合は、その部分も一緒に取り除く)鉄筋の錆落しを完全に行なった後、周辺コンクリート部分も含め、全面にリチュームシリケートなどの「浸透性中性化抑止剤」をていねいに塗布し、しばらく待って十分に含浸させます。
また、鉄筋の状況によっては、上記中性化抑止剤の塗布前に、以下の処理をします。
@腐食による鉄筋の断面欠損が著しい場合は、鉄筋自体の取替えの要否の検討
A太さ10ミリ以下の鉄筋でかぶり厚が不足している場合は、鉄筋を中に叩き込む
B太さ13ミリ程度の鉄筋でかぶり厚が不足している場合は、加熱後に叩き込む
これらの工程を終了した後、最後に、鉄筋周囲の細部に隙間が残らないように、モルタルペーストをていねいに擦り込んでから、ポリマーセメント等のモルタルで埋め戻します。
この鉄筋腐食改修工事は、それ以後の建物の耐久性維持のためには、極めて重要な意味をもつ改修工事となりますので、上記一つ一つの工程の打ち合わせと、施工過程での現場確認が大切となります。
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