マンション管理費等滞納対策・第4回目の今回は、前回の「その他の法的手段」の続編です。
C■区分所有法59条に基づく、競売請求
これは、管理費等の著しい滞納行為を、区分所有法6条に規定している「共同利益背反行為」と積極解釈して、区分所有法59条に規定されている「義務違反者に対する区分所有権の競売請求」を、管轄(又は、合意)地方裁判所に申立てるというものです。
この競売請求の場合の特徴は、先取特権等の担保権の実行に基づく競売請求と異なり、競売後の配当利益を予定していない(つまり、請求権者への配当がない)ので、たとえ、競売後の配当利益が見込めない「無剰余」の場合でも、競売請求が認められる点にあります。
よって、競売請求が容認された場合、一義的には、滞納金回収はできませんが、競売物件買受人が区分所有法8条の規定により、滞納管理費等も引き受けることになりますので、結果的には、滞納金回収と同一の効果を期待することができます。
ただ、管理費等の滞納者に対して、上記59条が適用されるためには、以下の要件が必要となります。
●先取特権の行使や、その他財産に対する強制執行等のいずれもが効を奏さない。
●著しい不払い状況にある。
※著しい不払いの参考事例としては、「ドイツの住居所有法」による、住居所有権の統一価格の3%相当額が、3ヶ月以上に亘って滞納している場合には、住居所有権の譲渡請求ができるという規定が参考となりうる。
また、この59条に基づく競売請求手続きの流れは、およそ以下の通りです。
●あらかじめ、滞納者に弁明の機会を与える(集会内の弁明の機会でなくてもよい)
●59条に基づく訴訟の提起(競売請求)について、集会で特別決議する(滞納者も議決権を行使できる)
●集会の普通決議により、管理者又は、指定者に「訴訟追行権」(原告となれる権利)を与える。
●管轄(又は、合意)地方裁判所へ競売請求。
●競売請求容認の判決確定
●判決確定後6ヶ月以内に、「競売の申立て」を行なう。
※判決確定後でも、滞納者は、区分所有権を譲渡できる。その場合には、判決確定後6ヶ月以内でも、競売の申し立てはできなくなる。
※競売が実行された場合には、その売却(落札)価格から競売に要した費用を控除した残金が、「滞納者に交付」される。この場合、区分所有権に設定されている抵当権等の担保権は、競売買受人の負担として、そのまま引き受けられるので、抵当権者等は配当要求ができない。
なお、著しい管理費等の不払いに対して、区分所有法58条による専有部分使用差し止め請求ができるかどうかにつきましては、平成13年9月5日の大阪地裁による「容認判決」と、同一事件の平成14年5月16日大阪高裁による「否認判決」の相反する2つの司法判断があります。
この案件は、区分所有者Yが、平成3年9月から平成12年までの管理費滞納に対して、管理組合が、この管理費の滞納は共同の利益に反する行為として、1.Yの専有部分の使用禁止及び、2.滞納管理費の支払を求めて大阪地裁へ提訴したものです。
一審の大阪地裁では、管理組合の訴えを認めて、1.Yによる専有部分の使用を2年間禁止する。2.滞納金1348万円と遅延損害金を支払えとの判決が下りました。この判決は、管理費の滞納は「共同の利益に反する」として、区分所有法58条による専有部分の使用禁止を命じた初めての判例として注目を集めました。一方、その後の控訴審大阪高裁では、原告訴えの使用禁止は認められないと、逆転判決を言い渡しました。
■平成3年から、平成12年まで1348万円の滞納は、期間及び金額の双方で著しいものがあるとして「区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たることは認められる。
■しかし、専有部分の使用を禁止することにより、滞納者が滞納管理費を支払うという関係にあるわけではない。滞納と使用禁止とは関連性がないので、滞納者に対して専有部分の使用禁止を認められるべきものではない。
■滞納に対して、区分所有法59条の競売請求は認める実益があり、要件をみたす場合は競売請求をすることができる。
つまり、大阪高裁判決では、管理費等の著しい滞納行為は、区分所有法6条の共同利益背反行為にあたるとしながらも、あくまで「消極的不作為」に過ぎず、使用差し止めによる改善効果(滞納管理費等の支払い促進)は期待できず、58条(専有部分の使用禁止)が適用されるためには、あくまで「積極的な作為があること」が要件とされました。