マンション訴訟の扉(3)[駐車場訴訟]
人間は、社会人としての協調的抑制と、他方個人としての自己実現欲求との狭間で葛藤する。あるときは、他人への慈愛に溢れ、あるときは、自己の傲慢に溺れる。
これは、慈愛に満ちた人でも、その時のちょっとした機微のいたずらで、衷心に反してエゴに走るときもあるという、集団社会に生きる人間の宿命ともいえる「悲哀」をいい表しています。
時に、社会の縮図ともいわれるマンション社会においても、何気ない自己の権利主張だったものが、いつのまにか、「プライド」という魔物に引き摺られ、引くに引けない状況に追い込まれてしまう。挙げ句には、自己の正当化のためには、理性をもかなぐり捨て、究極のエゴを生み出す。
まさに、同じマンション内の人間同士で、「訴える」「訴えられる」という次元の訴訟問題にまで発展した事例が、これに当たるといえます。
今回の訴訟事案は、その中でも、過去2回の隣戸騒音問題や、ペット飼育問題とは違って、あくまで、互いの権利主張のための争い「駐車場使用問題」です。
<訴訟事例(1)>
[事案概要]
昭和62年11月竣工の375戸、駐車場区画126区画の物件。
本件原告ら(20人)は、昭和63年1月に、分譲業者から、重要事項説明の際、駐車場の使用権は抽選によるが、使用権の期限はない、半永久的(契約の自動更新により)に使えると解される旨の説明を受けた後、売買契約を結び、翌2月の抽選会で、駐車場使用権を得た(駐車場使用契約書には、契約期間1年。ただし、双方[相手方は、管理組合]から申し出がない場合は、同一条件で更新される旨明記されていた)区分所有者であるが、その後、平成3年の管理組合総会において、「契約期間を2年とし、以後2年ごとに申込みを受け抽選とする」という駐車場使用細則と、それに伴う契約書条文の改訂が可決される(過半数による普通決議による可決)に至った。これに対して原告らが、管理組合を相手取り、この総会決議の無効と、駐車場使用権の確認を求めて、浦和地裁に提訴したもの。
[原告主張]
1)本件契約は、解除権の制限された相当の長期間継続するものである。
2)使用契約期間を変更することは、規約変更にあたり、4分の3以上の賛成が必要である。
3)分譲業者の重要事項説明の際にも、半永久的に使えると解せる旨の説明を受けた。
[浦和地裁・判決要旨]
1)本件の契約は、契約期間後の更新について特約しているが、それが即座に解除権の制限された契約とは認められない。
2)本件専用使用権の期限については、管理規約には、特段の定めがないから、使用細則にて2年と規定することは、管理規約に抵触しない。よって、規約変更には当らず、過半数決議は有効である。
3)分譲業者の説明は、誤解に基づくもので、上記認定を左右するものではない。
以上のことから、原告請求棄却。被告・管理組合側、勝訴。
<訴訟事例(2)>
[事案概要]
全35戸、駐車場17区画の物件。
もともと、駐車場の専用使用権は、「駐車場取り扱い要領」により、1年ごとの抽選入れ替え制としていたが、その後の管理組合総会にて、「駐車場専用使用権を半永久制(自動更新を認める)」とするという、上記要領変更の決議(過半数による可決)が為された。これに対して、一部区分所有者らが、管理組合を相手取り、総会決議の無効を求めて、神戸地裁に提訴したもの。
[神戸地裁・判決要旨]
本件「駐車場取り扱い要領」は、区分所有者全員の合意に基づき、書面により基準を定め運営されてきたものであるから、形式的にも実質的にも、規約としての要件を具備している。よって、本件要領変更は、規約変更に当たる(4分の3以上での可決が必要)と解されるので、本件決議(過半数可決)は、無効である。被告・管理組合側、敗訴。
上記はいずれも、駐車場の使用期間の取り決め変更が、管理規約改訂に当たるかが、一つの争点となっていますが、今回の駐車場の使用期間に限らず、他の裁判事例をみても、マンショントラブルにおける裁判所の見解は、「合法的に成立した管理規約」の規定内容を、最優先判断基準としていることが伺われます。したがって、管理組合運営の実務においては、変更頻度の比較的高いと予測されるものについては、管理規約自体には明記(特に、数的表示)せず、過半数可決での変更が可能な、使用細則その他に委ねることとした方が、賢明だといえます。
なお、蛇足ながら、社会人のもつべき、公共の利益に対する意識(もっと言えば、社会正義)として、事例(1)の原告らと、事例(2)の原告らとでは、大分違うように思うのですが、みなさんは、いかがお感じでしょうか。やはり、駐車場敷地は、区分所有者全員の大切な共有物ですので、全戸数分に満たない場合は、譲り合いをもって、「機会均等」に使われるべきではないでしょうか。
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