前回、1981年以前の旧耐震基準のRCマンションが、特に、耐震改修が必要な建物が多いことを述べましたが、耐震改修の目的は、いうまでもなく、建物が一定の地震に対して壊れないレベルまで耐震性能をアップさせる(一般に、梁間方向。桁行方向共、構造耐震指標値[Is値]0.6〜0.7を目標に耐震改修される)ことであり、そのための考え方としては、以下の3つが基本となります。
@建物の強度(剛性)を高める。
A建物のねばり(靭性)を高める。
B上記2つを併用する。
さらに、上記を各建物で具現化する上で、以下の条件を満たすことも要求されます。
@極力、引越しをしないで工事をする。
A工事に伴う振動・騒音・粉塵が少ない工法とする。
B補強後の見栄えも考慮する(デザイン性)
C現状の使い勝手、機能性を損なわない。
Dローコストで行なう。
それでは、以上を踏まえた上で、具体的改修方法をみてみます。
<部材補強による耐震改修>
一般の低中層の階層式ラーメン構造マンションでは、梁間方向(短辺方向)は、耐震壁量が多いので耐震上さほど問題となるケースは少ないのですが、桁行方向(長辺方向)は、サッシ窓や玄関などの開口部がある関係で、どうしても剛性・靭性不足となっている建物が多く、耐震改修ポイントの一つとなっています。
【部材の剛性を高める方法】
特に、固有周期(建物の揺れの一周期の時間的長さ)の短い建物(つまり高さの低い建物)ほど、建物に加わる水平過重は、一義的には、構造部材(柱・梁・耐震壁)の剛性で対抗することが重要となりますので、この部位の強度が十分でない場合には、以下のような方法で、補強する必要があります。
[耐震壁]
■袖壁の増設
■壁厚を厚くする
■鉄骨ブレースを設置する
[柱]
■炭素繊維シート・アラミド繊維シートを巻く(ボンド等で接着する)
[梁]
■鋼板を巻く(ボルト等で拘束する)
※ピロティ部分の耐震補強の場合は、上記の内鉄骨ブレース補強が一般的です。
【部材の靭性を高める方法】
中層以上の階層式ラーメン構造のマンションで、柱のせん断補強能力が不十分な建物(帯筋ピッチが広い・帯筋緊結不良等)の場合、柱に十分な変形能力(靭性)が期待できないので、地震等の強い水平過重を受けた時、柱に斜めにひび割れが入り、さらには、上階過重を支えきれずに崩壊(せん断破壊)する恐れもあることから、柱の靭性確保のための補強が必要になります。一般には、柱に
■鋼板を巻く(ボルト等で拘束する)
■炭素繊維シート・アラミド繊維シートを巻く(ボンド等で接着する)
■PC鋼棒を帯筋状に巻く(鋼棒に張力を加えて拘束する)
などにより、柱のはらみを拘束する方法が取られます。
<骨組み増設による耐震補強>
部材耐震補強を採用すると、対象部位が広範になりすぎる場合や、コスト的な面あるいは、引越しをしないで工事を進めたい、などの要望がある場合には、建物外部に構造骨組みを増設して、建物全体に剛性と靭性の両方を付加する方法が取られます。主な工法には、以下のものがあります。
@梁間方向の壁(妻壁)外部にバットレス(構造壁柱[RC造])を増設する
A梁間方向に共用室等を増築する
B桁行方向の外部全面に、フレーム(鉄骨の柱・梁)を増設する
C桁行方向の外部全面に、鉄骨ブレース(筋交い)付きフレームを増設する
D桁行方向の外部中央部分のみに、コア[RC造]を増設する
分譲マンションの耐震補強の場合には、資産価値の維持(或いは、向上)という観点も重要な要素となりますので、上記BCのように、外観上いかにも補強しましたというような、デザイン性の劣るものは、採用されにくい傾向にあります。
なお、骨組み増設補強は、これまで、増築に伴う建ぺい率・容積率オーバーの問題や、法令改正により、現状すでに容積率オーバーの既存不適格状態などの関係から、実施できない建物も多かったのですが、1995年の「耐震改修促進法」で、耐震補強目的の増築の場合は、既存不適格状態でも工事を認可するという緩和措置が盛り込まれたことにより、近年では、この工法による耐震補強を採用する事例が増えています。