<プロローグ>
住宅金融公庫が、かつて、分譲マンション購入後1年目の居住者を対象に行った「居住性調査」によると、調査対象者の50%(2人に1人)程度が不満をもった項目に、収納・自転車置き場・子供の遊び場・緑地面積等のスペースの少なさに対する不満と共に、上階からの騒音や屋外からの騒音などの「騒音」に対する不満が上げられています。特に、上階からの騒音などの居住者間の音の問題は、いつしか加害者と被害者の関係となり、さらに感情のもつれが悪化すると、民事訴訟や不法行為(悪質ないやがらせや挙句の果てには、こともあろか騒音を出している側への危害を加える[過去にピアノ殺人事件もあった])などに発展した特異な事例もあります。
そこで、今回から数回にわたって、マンションのテーマの中でも重要テーマの一つである「音環境」について考察します。第一回目の今回は、「外部騒音の遮音について」です。
<外部騒音の遮音設計について>
今日の都市型マンションの設計においては、外部騒音を一定レベル以下に抑えることも、マンション性能を追求する上では、大事な要素の一つとなります。RCマンションの場合、外壁面からの透過音は考慮しなくてもよいので、外部騒音の影響による居室内騒音レベルは、もっぱら開口部(窓)の遮音性能により決まることになります。
その窓部の設計上の必要遮音性能を求めるには、まず、住宅内の騒音基準値として、閑静な住宅地をモデルとした、40dBA相当(日本建築学会の騒音等級2級[N40値])を設定して、これに居住する地域特性(ex.都市住宅地は+10dBA)による補正値や発生騒音の特性評価(音質・間欠性)による補正を加えて、設計時の室内騒音の目標値とします。そして、窓面の位置での外部騒音データ(平均値又は、最大値)をもとに、窓部の必要透過損失レベル(遮音性能)を求めます。
分かり易くするために、ここで、一つの事例を想定してみましょう。
今、都心部(外部騒音:交通騒音[変動騒音]、睡眠時間帯の平均値[等価騒音レベル]:70dBA、最大騒音値:85dBAの場合)のRC壁マンションで、居室のサッシ遮音性能を決定すると仮定しましょう。以下の簡易計算で、窓部のおおよその必要性能(透過損失レベル)が求められます。
外部平均騒音値−(室内騒音基準値+地域特性+騒音特性)= |
窓部の必要透過損失レベル |
70dBA 40dBA 10dBA −5dBA |
25dB(T−1等級) |
外部最大騒音値−(室内騒音基準値+地域特性+騒音特性)= |
窓部の必要透過損失レベル |
85dBA 40dBA 10dBA −5dBA |
40dB(T−4等級) |
結果、上段式の平均騒音値を基準にする場合は、T−1等級のセミエアタイトサッシ以上の遮音性能を有するサッシが必要となり、下段式の最大騒音値を基準にする場合は、T−4等級の最高ランクの性能を有するサッシ(防音二重サッシ等)が必要となります。
*実際の設計では、上記の要素の他に、窓部外壁の音反射状況や室内吸音力・窓面積などを加味して計算されますが、上記の簡易算定とほぼ近似値です。また、一室に窓が2方位以上ある場合には、両方の窓から透過する騒音を合成して計算するようになります。
また、音の周波数特性として、単板ガラスの低音域(250ヘルツ付近以下)の遮音性は、質量則によりガラスが厚い方(ペアガラスや二重サッシは別)が有利となりますが、中音域(500〜1000ヘルツ付近)の遮音性は、コインシデンス効果(入射音の周波数とガラスの振動周波数が一致すると放射音が増幅される)により、逆にガラスが薄い方が有利となります。
ちなみに、ペアガラスの場合は、中間空気層6ミリより12ミリの方が、250ヘルツ付近以下の中低音域の遮音性能は、ガラスと中空層の共鳴透過により、著しく低下しますが、異厚ペアガラスにすると大幅な改善がみられます。二重サッシについても、ペアガラスと同じような現象が起きるので、低周波域の遮音性では、不利となる場合があります。
こういったことから、最終的にサッシ仕様を決定する場合には、これらガラス等の周波数特性と外部騒音の周波数特性(ex.大型車両の交通量の多い環境では、低周波域の騒音が多くなる等)の両方を十分考慮した上で、決定することが大切となります。
※尚、外壁面に換気口がある場合は、せっかく高性能のサッシを設置しても、音漏れの原因となるので、防音フード付き等の防音構造の換気口を取り付ける必要があります。また、高音域の遮音性は、サッシの気密性に大きく左右されるので、定期的な気密性のチェック(レバーハンドルやクレセントの締り具合や気密材の劣化具合)が必要となります。
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