今回は、マンションの音環境の第2回目[隣戸騒音(1)]です。
この隣戸騒音は、同じ騒音でも、前回の外部騒音と違って、騒音原因が、同じマンション内の隣接居住者にあるだけに、より慎重な対応が要求されます。
また、隣戸騒音の中でも特に、「上下階の騒音」には、主に、
*衝撃性を伴う「固体伝播音」(外部騒音は、空気伝播音)
*唐突に発生する「間欠騒音」(交通騒音等は、半規則性のある継続騒音)
*音源を特定できる「純正音」(交通騒音等は、複数の音が混合した合成音)
などの騒音特性があるので、実際の騒音値以上に、うるさいと感じる音質だといえます。
それでは、「上下階の騒音」について考察してみます。
まず、上下階の騒音は、大きく分けて以下の3つの騒音源があります。
【1】窓からの側路伝播音(上下階からの空気伝播音)
【2】外壁からの側路伝播音(上下階からの固体伝播音)
【3】床衝撃音(上階からの重量衝撃音[LH]軽量衝撃音[LL])
[窓からの側路伝播音]
これは、床衝撃音の遮音レベルが、遮音等級1級以上になり、室内の静粛性が増すと、急に気になりだす、いわば副事的騒音といえます。窓面積が大きいと、当然遮音的には不利となるので、開口部の広い部屋や、開口部が2方位以上ある角部屋などで気になる場合は、防音サッシなどが必要です。
[外壁からの側路伝播音]
この音は、窓からの側路伝播音と違い、固体伝播音なので、意外に無視できないものがあります。
ある塔状マンション(ワンフロア1住戸)で、「2階下の子供の声が聞こえた」という事例もありました。通常こういった場合、窓からの側路伝播や設備系のシャフトなどからの伝播ではないかと考えがちですが、調査の結果意外にも、外壁から伝わっての側路伝播音であることがわかりました。
これは、塔状マンションの場合、居室の壁面積に占める外壁面積が多い(3面が外壁)ことから、住戸内の音が上下方向にだけ伝播するためと考えられます。(2面外壁の角住戸においても、同じことが言える)また、外壁面がGL工法などの中空層のあるボード仕上げの場合、より増幅される傾向となるので、対策が必要な時は、ウレタン吹付け・GL工法などに代わって、断熱モルタル・クロス直貼り工法などにする必要があります。その他、大梁支持のない壁式構造の場合も、外壁伝播しやすくなります。
[床衝撃音]
隣戸騒音の中でも、最も嫌悪性の高い騒音といわれているのが、上階床からの床重量衝撃音[LH]と床軽量衝撃音[LL]です。
まずLHですが、これは、子供の飛び跳ねなどを想定した「ドスン」という低周波数域(63ヘルツ付近の音が中心)の衝撃音を指します。この衝撃音の大小は、「スラブ厚」と「スラブ面積」(梁で囲まれた部分)により決まりますが、一般の設計目標値である遮音等級1級(LH50)を満足させるためには、4周大梁支持のスラブ面積25m2(約15畳)の場合で、スラブ厚200ミリ以上が必要となります。
また、遮音性の面から床工法を見た場合、現在の施工レベルからすると、浮き工法・直床工法・置き床工法の順に、有利であると考えられますが、床の下部分にあたる下階の天井が、通常の吊りボルトによる二重天井の場合は、LHが、63ヘルツ付近(最も嫌悪される周波数域)で、2〜5dB程度増幅することがあります。対策としては、サウンドブリッジとなる天井スラブからの吊りボルトを止め、直天とするのが一番いいのですが、設備等の取り回しの関係で、天井懐が必要な時は、プラスターボードの二重貼り(できれば、12.5ミリのダブル)などが効果的といえます。
なお、リビングルームなどの壁間スパンを決める際、63ヘルツの壁間の共振波長が、5.55メートルとなることから、壁間内寸がこの寸法に近い場合は、ある程度LHが、共振増幅されることも考えられます。
一方、LLの方は、床にスプーンやナイフ等の金属物を落とした時の音を想定した「コツン」という中低音域(125〜250ヘルツ付近の音が中心)の衝撃音を指します。LLの設計目標値は、通常、遮音等級1級(LL45)ですが、この音の場合は、床仕上げ材の性能に大きく左右されるので、たとえば、フローリングの上に、カーペット等の緩衝素材を敷けば、大幅に低減されることになります。
また、LLの場合、LHの場合とは逆に、中空層があった方が有利となるので、天井工法では、直天より二重天、床工法では、直床より二重床の方が有利となります。
なお、直貼りフローリング工法と、内部が中空となった箱型ボイド仕様のスラブ構造の組み合わせは、ボイドの中空部分が加振して、LLレベルが上がることがあるので注意が必要です。