1999年(平成11年)に、旧建設省住宅局民間住宅課が、全国7大都市圏の民間分譲・公的分譲マンション併せて2,000管理組合と、その居住者40,000人を対象に「マンション総合調査」を実施しました。[有効回答数907組合、12,383人]
その中で、マンション内でのトラブルについて、尋ねた項目があります。それによると、いわゆる、マンションの三大トラブルと言われている「音に関する問題」「ペット問題」「駐車場問題」が、ほぼ予想通り、上位3位を占めました。
また、トラブルの中でも、特に根深い問題に発展しやすい、ペットに関する詳細調査として、犬・猫の飼育ルールについて尋ねたところ、全面禁止と答えた管理組合が、全体の54.0%と最も多く、次いで、限定して認めているが27.9%、規則はないが10.3%、全面的に認めているが最も少なく、わずか1.1%でした。
ただ、これらペット(犬・猫)飼育を全面禁止しているマンションでも、実際には、管理組合活動にあまり積極的でない人などが、隠れて飼っているケースは、意外に多いようです。「賃貸ならまだしも、自分が買った部屋なのだから、他の居住者に迷惑を掛けさえしなければ、別にいいではないか」というのが、主な言い分のようですが、このマンション内のペット飼育是非論争は、双方の妥協点が見出せず、最終的には、訴訟にまで持ち込まれたケースもありました。以下に、ペット問題の訴訟事例をみてみます。
<訴訟事例>
[事案]
昭和58年から犬を飼っていたA(家族)が、昭和60年に、7階建て26戸の新築マンションを購入した。そのマンションの原始規約(分譲時点の管理規約)に、ペット飼育を禁止する規定がなかったので、その愛犬を伴って入居したところ、その後の総会で、ペット飼育を全面禁止する内容の規約改正が可決された。(Aの承諾は得ていない)管理組合側は、その改正規約を根拠に、Aにマンション内での犬飼育を止めるよう勧告したが、Aは、長男の自閉症の治療として飼っているなどの理由で、これを拒否したため、管理組合側が、Aを相手取り、マンション内での犬飼育をやめるよう東京地裁に提訴(共同利益背反行為差し止め請求)した。
[裁判の争点]
「規約の設定・変更・廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすときは、その承諾を得なければならない」という、区分所有法第31条の規定が、この事案に該当するかどうか。
[東京地裁判決]
「飼育禁止の規定新設は、被告の権利に特別の影響を及ぼすものではない」として、原告勝訴。被告(A)に、管理規約に従うよう命じた。被告側は、これを不服として、東京高裁に控訴した。
[控訴審・控訴人主張]
【1】他人に迷惑を掛けていない以上、ペット飼育は、区分所有法でいう「共同の利益に反する行為」には当たらない。
【2】飼育している犬は、十分に躾けられており、過去に、他人に迷惑や被害をもたらした事実はない。
【3】犬は、自閉症の子供の治療にも役立っており、家族の一員である。
よって、飼育を全面禁止する規約改正は、一部の区分所有者の権利に特別の影響を与えるものであり、規約改正には、飼育者(控訴人)の承諾が必要である。
[東京高裁・判決要旨]
「マンション内での動物の飼育は、具体的に他の入居者に迷惑を掛けたか否かを問わず、管理規約で禁止されている以上、共同利益背反行為といえる。また、盲導犬のように、生活上不可欠の存在でない限り、ペット飼育は、単に、飼い主の生活を豊かにするに留まる。また、長男の自閉症の専門的治療上、必要であるという特段の事情を認めるに足りる証拠はない」として、控訴を棄却した。控訴人は、これを不服として上告した。
[最高裁判決]
控訴審の判断を支持し、上告棄却。よって、原告勝訴確定。
(1998年[平成10年]3月16日)
以上が、裁判の主な経緯ですが、ペットを我が子同然のように寵愛している愛好家にとっては、ペットの存在を過小評価?しているともとれる裁判所の見解には、少なからず反発を覚える方もいるかもしれませんが、最高裁の判例が示された以上、この前例が覆ることは、当分ないと言えるでしょう。
また、現在、ペット共生マンションとして分譲されているマンションでも、将来区分所有者が入れ替わるなどすれば、上記判例のように、後天的に、ペット飼育が規制される可能性もある、ということは、心得た上で購入すべきでしょう。
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