マンションの欠陥の中でも、最も深刻で、許しがたい欠陥といえるのは、やはり「建物の強度」にからむ構造的欠陥です。特に、コンクリートの強度不足につながる構造的欠陥は、大地震などの予期せぬ外力等により、その建物の中で暮らす多くの人の生命をも脅かしかねません。
戦後、昭和30年代後半から昭和40年代まで続いた、高度経済成長といわれた時期は、大量生産・大量消費という時代背景に支えられ、商業施設・オフィスビル・マンションなどを中心に、全国的なRC造の建設ラッシュが起こりました。その結果、建設業界では、コンクリートの原材料となる良質な「川砂」「川砂利」の不足を引き起こしました。そして、その代わりに出回ったのが、塩分を多く含んだ「海砂」でした。もちろん、海砂自体に問題があるのではなく、塩分を除去(洗浄)しない砂に問題があるのですが、実際、オイルショック(昭和48年)以後、西日本を中心に、多くの建物にこの未洗浄海砂が使われるという事態が起こりました。これは、社会的にも大きな問題となりました。
旧建設省では、これらの状況を受け、昭和52年10月、住宅局建設指導課長名で「コンクリート中に使用する細骨材(砂)に、止むをえず海砂を使う場合は、塩分が一定量になるまで、洗浄すること」という内容の通達を業界に出しましたが、その後も、作為的かどうかは定かではありませんが、未洗浄海砂の使用を根絶するまでには至りませんでした。
その他、構造的欠陥を生み出す要因となるものには、施工現場での意図的な「手抜き」(打設前に、生コンに水を加える、いわゆるシャブコン等)や偶発的な「手抜かり」(工期不足による不十分なコンクリート養生など)等、施工監理の不十分さにより引き起こされるものが少なくありません。
そこで、今回は、過去明るみに出た、マンションの構造的欠陥事例を考察します。
<欠陥事例>
[1970年(昭和45年)竣工・横浜のRC造84戸のマンション]
昭和60年11月(築15年目)に、管理組合が長期修繕計画立案のために、建物診断を依頼したところ、ほぼ全住戸で「床スラブが下がっている」ことが判明する。診断業者立会による交渉の結果、デベロッパーは、全面的に施工上の瑕疵を認め、床スラブの全面改修工事となる。
■住戸内構造物解体
84戸を3ブロックに分けて工事開始。第1ブロックの居住者が、すべて外部へ引っ越した後、住戸内の建て付け内装材及び、設備部材等の内部構造物をすべて撤去する。
※この解体の結果、新たに、床スラブに空いたまま放置された貫通孔や、排水管の逆勾配・風呂釜排気口まわりに新聞紙が詰め込まれていた等の信じがたい悪質な施工手抜きが数箇所見つかる。
■床スラブ補強工事
ほぼ全住戸において、以下の工事を実施。
□床スラブのクラック部分へのエポキシ樹脂低圧注入
□袖壁(構造壁)付設による構造補強
□スラブ端部への一部コンクリート打設
※これらの工事は、あくまで、これ以上床スラブが下がらないための補強工事なので、床の下がりが改善されるわけではない。
■内装材復旧工事
数戸分、根太床工法で床を貼り終えたところで、床軋みがひどすぎる(もともと、スラブが平らでないので、根太工法では、適切なレベル調整ができない)の組合側のクレームから、すでに仕上がった住戸のやり直しを含め、床仕上げ工法自体の見直しが必要となり、すでに遅れていた工期がさらに遅れる。
このマンションは、3LDK+納戸が基本の間取りでしたが、解体から完了まで、実に10ヶ月以上を要する大工事となりました。10ヶ月もあれば、現在の建築工期なら、10階前後の中規模マンション丸々1棟が、新築で竣工しているところです。
また、工期の長さもさることながら、居住者とデベロッパーや現場工事業者との調整役となった管理組合役員の心労は、実に大変なものであったといいます。
なお、この構造的欠陥の原因が、設計上のものなのか、現場での施工上のものなのか、はたまた、それ以外のものなのかは、確然としていませんが、竣工時期やその他に発見された手抜き工事等から、大胆な類推をするとすれば、現場での「配筋工事」や「コンクリート打設工事」の際の「悪質な手抜き」の可能性が、極めて高い事例と思われます。
※昭和40年代のビル建築現場では、資材不足・資材高騰ばかりではなく、現場職人の絶対数不足の時期でもあった。したがって、短期・臨時等の未経験者や非熟練工が、多くの現場に携わっていた時代でもあった。