昨今の管理組合活動において、マンションの管理費や修繕積立金の滞納問題は、円滑な組合活動の一つの大きなネックとなっていますが、その傾向はすでに、平成11年の旧建設省(現国交省)の調査でも、実に48.3%の調査対象マンションで、「管理費等の滞納」が発生しているという調査結果からも伺い知ることができます。
そこで、滞納が発生した場合には、管理組合と管理会社が連携を取り合い、
@電話督促 A訪問督促 B普通文書督促 C氏名の公表 等を駆使し、滞納額があまり大きくならない内に、早めに回収しないと、最後は、滞納者も一括で支払うことが困難な状態になってしまう場合も少なくありません。
(督促の際には、後日の証拠のために、督促業務実施記録簿に、督促日・督促内容・相手方の返答等を記録しておくとよい)
そこで、今回は、管理組合が上記手段で督促等を駆使しても、管理費等の滞納が解消されない場合の対応措置について見てみることとします。
<内容証明郵便による督促>
時に滞納者の中には、何度電話や訪問による督促を試みても、居留守を使ったりして誠意のみられない滞納者もいます。そして、さらに普通文書による督促や氏名公表でも一向に支払ってもらえない場合(目安としては、滞納期間が、4ヶ月経過以降)には、次の段階として、「配達証明付き内容証明郵便」による督促状を「書留」で送付する方法が考えられます。
これによって、滞納者には、かなりのインパクトがありますので、いままで黙殺していた滞納者からも、何らかのリアクションが期待できます。さらに、督促状が弁護士名で書かれていたり、裁判所内の郵便局から発送された郵便の場合には、プレッシャーが強く一段と効果的だと言えます。
また、悪質な滞納者には、訴訟も止む無しという前提であれば、文書の末尾に「本状到達後、○○週間以内に上記お支払いがない場合には、不本意ながら何らかの法的手段を取らさせていただくことになります」と一項付け加えれば、より強力な実効性が期待できます。
なお、これらの文書により、滞納者側から「分割で払いたい、○○頃まで待って欲しい」等の回答が得られた場合には、「債務の承認」として時効中断事由(民法147条)に該当しますので、管理費等の請求債権の消滅時効(5年)中断という副事的効果も得られることになります。
<民事調停の申し立て>
内容証明郵便でも、効を奏さない場合には、次の段階として、仮に、滞納者の滞納理由が、管理費等額や管理組合活動自体あるいは、理事等に対する何らかの不満・不審に起因するものなどであれば、管轄(又は、合意)簡易裁判所に、民事調停を申し立ててみる手もあります。調停による第三者(調停委員)立会いによる話し合いの場となれば、滞納者側も自分の意見(支払い拒絶理由等)を主張する絶好のチャンスですので、申し出に応ずる可能性は、十分にあります。
通常、調停の申し立て(申請手数料は、訴訟時の半額[30万円の債権元本の場合=1500円印紙])が受理されると、1ヶ月後程度に第1回目の調停期日が指定されます。
調停期日には、まず、双方別々に調停室で事情を訊かれ、その後、双方を交えての話し合いとなります。その席で妥協案がまとまると、今度は、裁判官が入室し、その妥協案を確認した後、「調停証書(調書)」が書記官によって作成されます。
なお、妥協案が見出せない場合でも、裁判官の職権により、妥協案に代わる双方に配慮した「決定」をする場合もあります。そして、その決定に対して、2週間以内に双方共異議申し立てがない時には、調停調書と同じ効力(債務目名義)を有することとなります。
※債務名義とは、請求権の存在や範囲について、法的執行力を付与された文書
<支払い督促手続き>
内容証明郵便でも、効を奏しない場合で、特に滞納が判然としない時等は、次の段階として「支払い督促手続き」が考えられます。
支払い督促とは、金銭等の支払い請求権を、債権者に簡易迅速に「債務名義」を与える手続きで、民訴法(382条以下)により規定されています。手続きの概略は、以下のとおりです。
@まず、申し立ては、債務者の普通裁判籍(住所)を管轄する「簡易裁判所の書記官」に対して行ないます。
ただし、債務者の住所が特定できない場合には、申し立てできません。(申請手数料は、訴訟時の半額[30万円の債権元本の場合=1500円印紙])]
A書記官は、請求理由等申し立てが適法な時は、債務者の審尋なしに、支払い督促(正本)を送達します。
(債務者が引越し等により、支払い督促が送達できない時は、2ヶ月以内に、送達先(債務者現住所)を再申請しなければなりません)
B債務者が支払い督促の送達を受けて、「2週間以内」に異議の申し立てをしない時には、債権者は、さらに30日以内に、支払い督促に「仮執行宣言」を付する申し立てをします。
(債務者が異議の申し立てをした時は、支払い督促は失効し、自動的に通常訴訟に移行します)
C書記官は、債権者の上記申請に基づき、「仮執行宣言付き支払い督促(正本)」を債務者に送達します。
(この場合には、債務者の現住所が特定されない場合でも、公示送達が認められています)
D債務者が上記送達を受けた日から、「2週間以内」に異議の申し立てをしない場合や、異議申し立て自体が却下された場合には、仮執行宣言付き支払い督促が確定します。
これによって、この支払い督促は、確定判決と同一の効力(債務名義)を持つこととなります。
なお、支払い督促の場合、法的効力を持たせるには、上記のようにあくまで債務者が、異議申し立てをしないという事が前提条件となりますが、裁判所から債務者への支払い督促正本送達時、異議申し立ての書式及び、その記入方法等が同封されていることから、悪意のある滞納者(確信犯的滞納者等)に対しては、その実効性が今一つ期待できないかもしれません。