前回の管理費等滞納対策では、裁判外の方法で、なんとか滞納金を回収する方法を見てきましたが、それらがいずれも不調に終わった場合や、すでに滞納がかなり長期化している滞納者などに対しては、内容証明郵便での督促が効を奏さなかった段階で、訴訟に踏み切ることも考慮に入れる必要があります。
そこで、今回は、悪質な滞納者や長期滞納者に対する民事訴訟関連の考察です。
<少額訴訟手続き>
滞納額(遅延損害金を除く)が
90万円以下の場合には、管轄(又は、合意)
簡易裁判所に提訴することになりますが、その中で特に、滞納額が
30万円以下の場合には、「少額訴訟手続き」を選択することができます。(平成
16年
4月
1日より、少額訴訟対象額が
60万円以下に改定)
この少額訴訟手続きは、訴訟費用(印紙)が訴訟物価額の
1%と低額で、審理も
原則1回の口頭弁論期日で、判決までのすべての手続きが終了するという極めて簡便な訴訟手続きですので、弁護士等の専門家に依頼しなくても(いわゆる
当事者訴訟)、十分管理組合で対応できます。
※訴状は、裁判所備え付けの
定型書式(印紙を貼付)で、正本・副本(コピー)の2通を、添付書類(管理規約や総会決議議事録等)・郵券(4000円程度)と一緒に提出する。
また、少額訴訟の場合、一定条件のもと「
訴訟提起後の遅延損害金の免除」や「
3年以内の分割払い」「3年以内の支払い猶予」あるいは、その両方の適用など滞納者の支払い能力に応じて、相当配慮した判決が言い渡されることもあるため、滞納者側にこういった訴訟であるということを事前に理解させておけば、この訴訟に応ずる可能性は十分あります。
(少額訴訟の場合には、通常訴訟と違って、被告側が訴訟に応ずるかどうかは任意のため、少額訴訟を成立させるためには、事前に、少額訴訟の優位性を知らしめるなどして、滞納者側のコンセンサスが取れるよう極力努める必要があります。もし、仮に、管理組合側で少額訴訟を申し立てても、滞納者側が裁判所からの出頭に応じない場合には、自動的に通常訴訟に移行することとなります)
なお、少額訴訟は、言い渡された判決に対しては、異議申し立てができますが、控訴をすることはできず、また、同一裁判所における利用回数についても、同一被告に対しては、同一年内に
10回までと制限されています。
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<司法委員><裁判官><書記官> |
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<原告> |
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<被告> |
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※ラウンドテーブル(実際は楕円型) |
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<通常民事訴訟手続き>
少額訴訟が不調に終わった場合等には、最後の方法として、通常の民事訴訟を管轄(又は合意)簡易裁判所に提訴することになります。たとえ、簡易裁判所(訴額が90万円以下に限る)とはいえ、通常訴訟手続きに携わるとなると、やはり、弁護士に代理人依頼しないと中々思うような結果が得られないのですが(簡易裁判所の場合には、民訴法により、裁判所の許可があれば、弁護士以外の代理人選任も可)、訴額が低額の場合には、訴えの利益と弁護士費用(
着手金訴額の
8%、
報酬金16%、ただし、着手金の最低額は原則10万円)を天秤にかけた場合、訴訟提起を諦めざるを得ないケースもありました(簡易裁判所での訴訟事件の場合には、その他に、報酬額の関係で引き受ける弁護士も少ないなどの理由もあり、弁護士等の訴訟代理人を付けない
本人訴訟が約
8割以上を占めている)
しかし、平成
15年
7月
28日より、司法書士法の改正により、簡易裁判所で扱う訴額90万円以下(平成
16年
4月
1日からは、簡裁で扱える訴額が
140万円に改定)の訴訟事件について、特別講習後
法務大臣認定を受けた「
認定司法書士」に限り、
訴訟代理権が与えられることになりました。それによって、今までより低い費用(司法書士は、平成15年1月より報酬規定が廃止され、自由報酬化されたが、50万円以下の訴額の場合で、おおよそ着手金7万円程度、報酬金訴額の10%程度)で、訴訟代理要請が可能となるので、実質的には、低額の債権を有する債権者にとっても、より多くの訴訟提起機会が与えられたといえます。
それでは、以下に、一般的な民事訴訟の流れをまとめてみます。
■訴状及び、書証(証拠書類)の提出
□
印紙の貼付(ex.訴訟物30万円=3,000円印紙)
□
郵券の添付(ex.被告1名=6,400円切手)
<訴状の概略>
(印紙) 訴 状
○○裁判所 民事部 御中 平成○年○月○日
●原告訴訟代理人氏名
●原告住所・氏名
●原告訴訟代理人住所・氏名
●被告住所・氏名
[事件名]
●訴訟物の価額
●貼用印紙額
第一 請求の趣旨
第二 請求の原因
第三 予想される争点、その他
●証拠方法
●付属書類名
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■原告側へ「口頭弁論期日」・被告側へ「口頭弁論期日及び、答弁書催告状」の送達
□送達時期は、訴状受付後、およそ2〜3週間後。
□被告側が、弁論期日に無断で出頭しなかった場合には、原告勝訴(
擬制自白)となる。
□原告側も、第一回目の期日に限り、欠席が認められる。
■被告側「答弁書」及び、書証提出
□被告側から訴状の内容について争う、という旨の答弁書が提出された場合には、被告側も
第一回目の期日に限り、欠席が認められる(
擬制陳述)
■被告側の答弁書を原告側に送達
■口頭弁論/証拠調べ
□マンションの管理費等支払い請求等の明確な請求事件の場合には、通常2〜3回の期日、
期間にして2〜3ヶ月程度で終了する場合が多い。
■判決の言い渡し
□判決言い渡しの日には、原告被告とも、欠席することができる。
■判決正本の送達(数日後)
■判決確定
□判決言い渡しの翌日から、2週間以内に上訴がない場合には、判決が確定する。
□第一審が「
簡裁」の場合には、第二審が「
地裁」、第三審が「
高裁」となる。