「マンションの音環境」の第3回目です。今回は、前回の上下階の隣戸騒音につづき、戸境壁の隣戸騒音について考察してみます。戸境壁からの騒音は、上下階からの騒音ほど、大きな影響を受けない場合が多いと思いますが、左右隣戸との家族構成や生活リズムの違いなどから、気になる場合も出てきます。また、界床の場合、建築基準法による遮音性能規定や、仕様規定はありませんが、界壁(戸境壁)では、以下のような仕様規定・性能規定が設けられています。
[仕様規定]
共同住宅等の各戸の界壁は、小屋裏又は、天井裏まで達っせさせ、RC造・SRC造・SC造(鉄骨コンクリート造)の場合は、界壁厚10センチ以上とする。
[性能規定]
振動数(ヘルツ) |
125 |
500 |
2000 |
透過損失(デシベル) |
25 |
40 |
50 |
※透過損失とは、壁により音が遮音(反射・吸収)される音圧レベル値(dB)をいうので、数値が大きいほど遮音性能が高いことを意味する。
上記の表を見ると、振動数が低いほど、透過損失レベル値も低く設定されていますが、これは、低周波の音ほど、遮音しにくいという音の特性によるものです。ちなみに、人間の可聴音域は、20ヘルツ〜2万ヘルツで、隣戸音で最も気になる人の話声(有意味騒音)の周波数域は、100ヘルツ〜800ヘルツです。
<界壁の遮音設計>
界壁の遮音設計をする場合、基準としている数値が「D値」です。これは、室間音圧レベル差をあらわす指標です。(音響透過損失が、壁自体の遮音性能を表すのに対して、室間音圧レベル差は、2室間の空気音に対する遮音レベルを表すので、厳密には、壁自体の遮音性のほかに、受音室側の吸音力や壁面積も影響する)設計上のD値の目標値としては、一般に、日本建築学会の遮音等級1級(D−50)を目標として設計されています。(公団等は、D−45を設計目標としている物件もある)
※D値の表示は、2室間のオクターブバンド(125ヘルツ〜4キロヘルツの周波数域)の室間音圧レベル差を、D値評価曲線と重ね合わせて評価される。そして、そのD値評価曲線上の500ヘルツでのレベル値をD値として表示している。つまり、D−50という表示は、D値評価曲線上の500ヘルツでの値を示している。
また、音響透過損失は、壁の単位面積あたりの重さに比例するので、仮に、同じ壁密度で、厚さ10センチの壁と20センチの壁を比較した場合、20センチの壁の方が、5dB有利となります。
<界壁遮音上のマイナス要因>
【1】GL工法
これは、壁躯体にGLボンドを団子状にしたものを、数十センチ間隔で配置し、プラスターボードを浮かせ貼りするもので、ボードの中空層の共鳴と、ボード自体のコインシデンス効果(音環境・その2参照)により、100ヘルツ〜500ヘルツ(共鳴透過による)と2Kヘルツ〜4Kヘルツ(コインシデンス効果による)の周波数帯で、5〜15dBも遮音欠損するので、界壁には不向きな工法といえます。(最近のマンションでは、界壁にはほとんど使われていない)
【2】断熱材の界壁折り返し部分の処理
断熱材を打ち込む時、外壁から界壁に数十センチ折り返して施工される場合があり、この折り返し部分の処理をボード仕上げ(GL工法等)とすると、上記とまったく同じ現象が起き、遮音低下につながります。施工方法としては、ウレタンフォーム吹きつけボード仕上げの代わりに、断熱モルタル(モルタルにロックウールなどを混ぜ合わせたもの)クロス直貼り仕上げなどが、遮音上有効です。
【3】窓からの側路伝播
隣戸とのベランダ窓同士の距離が4メートル以内の場合(セットバックや雁行型マンション以外は、通常ほとんどが4メートル以内)壁自体の透過損失レベルが50dBあっても、普通サッシ(TL−20dB)仕様では、側路伝播音の影響を受け、D値は50を確保できなくなります。対策としては、D値の落ち込み程度により、T−1以上の防音サッシを比較選択することになります。また、同じく普通サッシ仕様で、ベランダ手摺りが、スリットのない全面RC壁等の場合(ベランダの隣戸との側面仕切りが、全面閉塞壁[RC壁]の場合は除く)も、音の反射の影響で、D値を下げる要因となります。
【4】その他の要因
その他、D値を下げる要因としては、過去に、界壁に両側からコンセントボックスが設置されていた(その部分の壁厚が極端に薄くなるので、その部分からの音漏れが大きくなる)等の物件も散見されましたが、現在では、ほとんど見られなくなりました。
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